美容室の売上目標は、席数と回転数と客単価では決まりません。技術と店販で粗利率がまったく違うので、同じ売上でも残る利益が変わるからです。

先に置くのは残したい利益と固定費です。そこから稼ぐべき粗利総額を出し、技術と店販に配ってから売上に換算します。これがこの記事の結論です。

席数×回転数×客単価は売上しか出さない

美容室の目標づくりでよく使われるのが、席数と回転数と客単価の掛け算です。前年より回転を少し上げて、去年の実績に少し足す形になります。

4席のサロンを1店置きます(モデル例)。1日3.0回転・年間300日営業・技術の客単価7,500円で計算します。単価・原価・固定費はすべて税抜の金額です(消費税は預り金で損益ではないため)。

技術売上 = 4席 × 3.0回転 × 300日 × 客単価7,500円 = 2,700万円

ここに店販が年1,000点・販売価格3,000円で300万円あるとします。総売上の目標は3,000万円になります。

この3,000万円を達成すると、いくら残るのでしょうか。技術の材料費が270万円、店販の仕入原価が180万円なので、変動費は合計450万円です。

差し引いて残る粗利総額(MQ)は2,550万円です。この店の固定費は年2,925万円あります。

席数×回転数×客単価で置いた売上目標3,000万円の着地(モデル例)
総売上3,000万円から変動費450万円が出ていき、残る粗利総額2,550万円で固定費2,925万円を払います。赤枠は375万円の赤字で、目標を達成しても払いきれていません。目標利益(G)と固定費(F)から 必要な粗利総額(MQ)を出し、 想定の粗利率 85.0% で割って必要売上(PQ)を求めています。

目標を達成しても375万円の赤字です。掛け算で出したのは売上の額だけで、固定費2,925万円を払ったあとに何が残るかは式の中に入っていません。

美容室の売上目標の決め方を左右で比べた図。左は席数×回転数×営業日数×技術の客単価で売上目標を置き、利益は残った額として出るだけで技術と店販の違いが式に入らない。右は残したい利益(G)に固定費(F)を足して稼ぐべき粗利総額(MQ)を出し、技術と店販へ粗利総額のまま配り、必要な客数・点数(Q)まで降ろす。必要売上は最後に出る結果になる。
赤枠の必要な客数・点数が、明日の動きに変えられる数字です。左の掛け算は売上の額しか出さないため、技術と店販のどちらで埋めても同じ達成に見えます。配るのは売上ではなく粗利総額です。

売上が結果であって出発点ではない理由は売上目標の根拠にまとめました。美容室ではその上に、もう一つの事情が重なります。

技術と店販で粗利率はどれだけ違うのか

美容室の売上は、性質の違う2つが混ざっています。技術売上と店販売上です。

技術はカラー剤やパーマ液などの材料費だけが変動費になります。モデル例では客単価7,500円に対して材料費750円、粗利率は90.0%です。

店販は仕入れた商品を売るので、仕入原価がそのまま変動費になります。販売価格3,000円に対して仕入原価1,800円、粗利率は40.0%です。

店販1点の中身と、1,000点ぶんの積み上げ(モデル例)
単価P3,000円
−
原価V1,800円
=
1個あたり粗利M1,200円
50万100万150万200万
粗利総額MQ1,000個粗利 120万円
0個横軸=数量 Q1,667個

☝ 図をタップするか、横にスライドすると、その個数での粗利が出ます

販売価格3,000円から仕入原価1,800円を引いた1,200円が、1点売るごとに積み上がります。1,000点で120万円。これが店販で1年に稼ぐ粗利総額です。技術なら1人で6,750円が積み上がるので、線の傾きは5.6倍になります。右上がりの線は、1個あたり粗利(M)1,200円 が数量ぶん積み上がっていく様子です。1,000個売ると、粗利総額(MQ)は 120万円 になります。

2つを並べると、同じ1円の売上が別の重さを持っていることが分かります。

技術店販
単価(P)7,500円3,000円
原価(V)750円1,800円
1件あたり粗利(M)6,750円1,200円
粗利率(m率)90.0%40.0%
売上1万円が残す粗利9,000円4,000円

技術の売上1万円は9,000円を残し、店販の売上1万円は4,000円しか残しません。売上という一本の数字で目標を置くと、この2.25倍の差が計画から消えます。

この差は業種の構造から来ています。技術は腕と時間を売り、店販はものを仕入れて売るからです。

先に置くのは残したい利益と固定費

逆算では、残したい経常利益を最初に決めます。美容室でこの額の土台になるのは、内装と設備の借入返済です。

返済の元本は費用ではないので損益計算書に出てきませんが、口座からは出ていきます。逆に減価償却費は利益を減らしますが、現金は出ていきません。

年間の元本返済額410万円(支払利息30万円は費用なので営業外費用(F3)に別で入れており、ここには足しません)・減価償却費200万円・実効税率30%なら、必要な利益は次のとおりです(モデル例)。実効税率は会社の規模や地域で変わるため、割り戻しに使う率は顧問税理士に確認します。

目標経常利益 =(年間の元本返済額410万円 − 減価償却費200万円)÷(1 − 30%)= 300万円

積み上げの手順は目標利益の決め方にあります。利益と現金がずれる仕組みは減価償却費で現金が減らない意味で扱いました。

固定費2,925万円の中身は5つに分けて持ちます。ひとまとめにすると、削る話が「どこかを削る」で終わるためです。

費目美容室での中身年間
F1人件費スタイリスト・アシスタントの給与、社会保険料1,800万円
F2経費家賃、水道光熱費、通信費、タオルなどの消耗品725万円
F3営業外費用借入金の支払利息30万円
F4戦略費販促、求人広告、講習費170万円
F5減価償却費内装・シャンプー台・機器の償却200万円
合計2,925万円

薬剤を変動費、タオルや消耗品を固定費に置いているのは、客数に比例して増えるかどうかで分けたからです。薬剤は客数に連動し、タオルの補充は連動しません。

必要な粗利総額 = 目標利益300万円 + 固定費2,925万円 = 3,225万円

粗利総額を部門に配ると何が変わるのか

ここで配るのは売上ではなく粗利総額3,225万円です。技術と店販では売上への換算率が違うので、売上で配ると意味を持ちません。

店販は年1,000点のまま据え置き、粗利120万円を受け持たせます。残る3,105万円が技術の受け持ちです。

技術の必要客数 = 粗利3,105万円 ÷ 1人あたり粗利6,750円 = 4,600人

技術の目標売上 = 4,600人 × 客単価7,500円 = 3,450万円

技術4,600人と店販1,000点で利益300万円に届く計画(モデル例)

技術

単価P7,500円
原価V750円v率 10.0%
1個あたり粗利M6,750円m率 90.0%
数量Q4,600個

=粗利MQ3,105万円

店販

単価P3,000円
原価V1,800円v率 60.0%
1個あたり粗利M1,200円m率 40.0%
数量Q1,000個

=粗利MQ120万円

技術+店販の合計

左は1個あたりの中身(単価=原価+1個あたり粗利)× 数量。商品ごとの粗利を足したものが、右の図の粗利総額(MQ)3,225万円 です。 そこから固定費(F)2,925万円 を引いた残りが経常利益(G)です。

技術3,450万円と店販300万円を足した3,750万円が必要売上です。粗利総額は3,105万円と120万円で3,225万円、固定費を払って赤枠の300万円が残ります。

技術店販合計
目標粗利総額3,105万円120万円3,225万円
粗利率(m率)90.0%40.0%86.0%
目標売上3,450万円300万円3,750万円
数量4,600人1,000点—
1営業日あたり15.3人3.33点—
回転数3.0回転 → 3.83回転——

技術4,600人を300日で割ると1日15.3人、それを4席で割ると1席あたり3.83回転です。現状の3.0回転から0.83回転ぶん上げる計算になるので、席数と人手が据え置きで吸収できるかをここで確かめます。増員すれば人件費(F1)1,800万円が上がり、必要な粗利総額3,225万円も上がります。

全社の粗利率86.0%は、技術と店販の構成比から出てきた結果です。店販比率が8.0%から動けば、同じ粗利総額3,225万円でも必要売上は変わります。

部門に配るのは粗利総額であって固定費ではありません。店販部門に家賃を割り振っても、店販の担当者が動かせる数字にはならないからです。

同じ3,750万円でも技術と店販で結果が逆になる

必要売上3,750万円と、先ほどの3,000万円の差は750万円です。これは売上の差で、粗利総額の差は技術で埋めれば675万円、店販で埋めれば300万円と別の数字になります。この750万円を店販で埋めた場合を計算します。

販売価格3,000円なので、750万円は2,500点です。店販は年3,500点になります。増える粗利は2,500点 × 1,200円 = 300万円です。

売上目標3,750万円を店販だけで達成した場合(モデル例)
総売上は目標どおり3,750万円ですが、店販が増えたぶん変動費が900万円に膨らみ、粗利総額は2,850万円しか残りません。赤枠は75万円の赤字です。目標利益(G)と固定費(F)から 必要な粗利総額(MQ)を出し、 想定の粗利率 76.0% で割って必要売上(PQ)を求めています。

売上目標は100%達成しています。それでも粗利総額は2,850万円で、固定費2,925万円に75万円届きません。

同じ750万円を技術で埋めれば、増える粗利は675万円です。客数が1,000人増えても材料費は75万円しか増えないので、変動費は525万円にとどまります。売上の達成率が同じでも、中身が違えば黒字と赤字が入れ替わります。

技術で埋める店販で埋める
総売上3,750万円3,750万円
売上の達成率100%100%
変動費525万円900万円
粗利総額3,225万円2,850万円
経常利益300万円−75万円

売上を目標にするかぎり、この2つは同じ「達成」として報告されます。粗利総額を目標にすれば、届いていないことがその月に分かります。

技術売上と店販売上を同じ長さの横棒で並べた図。上の技術は棒の左端のわずかな部分だけが原価(V)で、材料費しか出ていかないため残る粗利(M)が棒の大半を占める。下の店販は棒の半分以上が原価(V)で、仕入原価がそのまま出ていくため残る粗利(M)は小さい。同じ額の売上でも残る粗利の大きさが違う。
赤枠は、同じ額の売上を店販で作ったときに残る粗利です。上の技術より短いぶんが、そのまま固定費の払い残しになります。売上の達成率が同じでも黒字と赤字が入れ替わるのは、この差が原因です。

1日あと3.3人はどこから埋めるのか

現状の粗利総額2,550万円と、必要な3,225万円の差は675万円です。いまの技術の客数は4席 × 3.0回転 × 300日で3,600人です。この675万円を何で埋めるかを並べます。

打ち手1単位あたりの粗利675万円に必要な数1営業日あたり
技術の客数を増やす1人 6,750円1,000人3.3人
店販の点数を増やす1点 1,200円5,625点18.8点

技術なら1日あと3.3人、店販なら1日あと18.8点です。店販の点数は現状の1,000点から6,625点へ、6.6倍にする計算になります。前の節の3,500点は売上750万円を埋める数で、ここの6,625点は粗利総額675万円を埋める数です。

客単価で埋めるなら、7,500円から9,375円へ1,875円上げれば同じ675万円が埋まります(いまの3,600人がそのまま来る前提)。値上げ分に材料費がつかないので効き方は大きく、その代わり客数が落ちる前提で検算が必要です。仕組みは値上げで利益はどれくらい変わるかで追いました。

固定費を削る道もありますが、675万円は経費(F2)725万円のほぼ全額です。戦略費(F4)170万円の販促と求人を止めれば当期は浮きますが、来期の客数と人手が細るおそれがあります。

675万円足りないと言われても、明日の朝に何をするかは決まりません。1日あと3.3人なら、指名の再来サイクルを1回早める、空き枠に1名入れる、と打ち手の形になります。空き枠が1日3.3人ぶん残っていなければ、席数を増やすか営業日数を延ばすかの話に変わり、そこでも人件費(F1)が動きます。

金額を数まで落とす考え方は損益分岐点は何個かでも扱いました。美容室ではその数が客数と店販の点数に分かれます。

まとめ

  • 席数×回転数×客単価で出るのは売上の額だけで、固定費を払った後に何が残るかは入っていない
  • 技術は粗利率90.0%、店販は40.0%。売上1万円が残す粗利は9,000円と4,000円で2.25倍違う
  • 先に決めるのは残したい利益と固定費。足した額が稼ぐべき粗利総額になる
  • 部門に配るのは売上ではなく粗利総額。技術と店販で売上への換算率が違うため
  • 売上目標を100%達成しても、店販で埋めると赤字になる。達成を見る数字は粗利総額

GYAKUSAN を使うと、技術と店販の必要数が分かれて出る

無料シミュレーター GYAKUSAN は、残したい利益と固定費から粗利総額を出します。それを部門と商品へ配り、必要な販売数まで計算します。

入れる数字GYAKUSAN が出す数字
残したい経常利益(G)300万円と固定費(F1〜F5)2,925万円稼ぐべき粗利総額(MQ)3,225万円
想定の粗利率(m率)86.0%必要売上(PQ)3,750万円
部門の目標粗利総額(技術3,105万円・店販120万円)全社の粗利総額3,225万円との検算
商品の単価(P)と原価(V)、年間営業日300日必要な客数・点数(4,600人・1,000点)と1営業日あたりの数

この記事のモデル例を入れると、こう出ます。

経常利益300万円 + 固定費2,925万円 = 稼ぐべき粗利総額 3,225万円

技術の粗利3,105万円 ÷ 1人あたり粗利6,750円 = 4,600人(1営業日あたり15.3人)

部門は2つ、1部門に商品3つまでが無料版の範囲なので、技術と店販の2部門はそのまま収まります。整合性チェックが、部門の粗利の合計が3,225万円に届いているかを検算します。登録は要らず、入れた数字はサーバーに送られません。