値上げした金額には、原価がついてきません。だから上げた分は、まるごと利益になります。 1割の値上げで利益が2倍になることは、珍しくありません。
「値上げしたら客が離れる」という不安は当然です。ただ、どこまで離れたら損なのかを 計算せずに悩んでいる会社がほとんどです。この記事では、その線を出す手順を数字で追いかけます。
なぜ値上げだけ、こんなに効くのか
売上を増やす方法は3つあります。値上げ・販売数を増やす・値引きして数を売る。 どれも売上は増えますが、会社に残るお金はまったく違います。
理由は単純で、増えた売上に原価がついてくるかどうかです。
- 1個多く売る → 売上は単価ぶん増えるが、原価も一緒に増える
- 1個の値段を上げる → 売上が増え、原価は1円も増えない
値上げした80円は、仕入れも人件費も追加で発生しません。まるごと会社の取り分になります。
数字で見る — 弁当店のモデル例
仮設のモデルとして、次の店で考えます。
| 用語 | 意味 | 例 |
|---|---|---|
| 単価(P) | いくらで売るか | 800円 |
| 原価(V) | 1個あたりの材料費・容器代など | 300円 |
| 数量(Q) | 月に何個売るか | 3,600個 |
| 固定費(F) | 家賃・人件費など毎月かかるお金 | 150万円 |
1個売るごとに、会社には 800円 − 300円 = 500円 が残ります。
粗利総額 = 500円 × 3,600個 = 180万円 経常利益 = 180万円 − 固定費150万円 = 30万円
目的ではなく結果の数字
ここが経営の原資
1割値上げすると、どうなるか
単価を800円から 880円 にします。原価は300円のままです。
1個あたりの粗利 = 880円 − 300円 = 580円(+80円) 粗利総額 = 580円 × 3,600個 = 208.8万円 経常利益 = 208.8万円 − 150万円 = 58.8万円
目的ではなく結果の数字
ここが経営の原資
2枚の図を見比べてください。変動費(108万円)も固定費(150万円)も、まったく同じ高さです。 増えたのは総売上と、その差額である粗利総額だけ。だから増えた分が丸ごと一番下の帯に落ちます。
単価は1割しか上げていないのに、利益はほぼ2倍になりました。
逆に、1割値引きするとどうなるか
同じ計算を値引きでやってみます。単価を720円にします。
1個あたりの粗利 = 720円 − 300円 = 420円 粗利総額 = 420円 × 3,600個 = 151.2万円 経常利益 = 151.2万円 − 150万円 = 1.2万円
| 単価 | 1個あたり粗利 | 粗利総額 | 経常利益 | |
|---|---|---|---|---|
| 1割値上げ | 880円 | 580円 | 208.8万円 | 58.8万円 |
| 現状 | 800円 | 500円 | 180.0万円 | 30.0万円 |
| 1割値引き | 720円 | 420円 | 151.2万円 | 1.2万円 |
単価を1割動かしただけで、利益は58.8万円にも1.2万円にもなります。 差は約49倍です。 売っている数はどれも同じ3,600個で、現場の働く量は1ミリも変わっていません。
原価が1割上がったら、いくら乗せるべきか
いま多くの会社が直面しているのは、値上げしたいかどうかではなく、 仕入れが上がったぶんをどう扱うかでしょう。原価が300円から330円(1割増)に 上がったとして、3つの対応を並べます。
| 対応 | 単価 | 原価 | 1個あたり粗利 | 粗利率 | 粗利総額 | 経常利益 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| ① 値段は据え置く | 800円 | 330円 | 470円 | 58.8% | 169.2万円 | 19.2万円 |
| ② 上がった30円だけ乗せる | 830円 | 330円 | 500円 | 60.2% | 180.0万円 | 30.0万円 |
| ③ 原価と同じ1割を乗せる | 880円 | 330円 | 550円 | 62.5% | 198.0万円 | 48.0万円 |
読み取ってほしいのは3つです。
① 据え置くと、利益の3分の1が消えます。 原価が30円上がっただけで、 経常利益は30万円から19.2万円へ。36%の減益です。売上も客数も落ちていないのに、 数字だけが痩せていきます。
② 上がった分だけ乗せても、元に戻るだけです。 1個あたり粗利は500円に回復しますが、 粗利率は62.5%から60.2%へ下がったままです。原価がまた上がれば、同じことを繰り返します。
③ 原価と同じ率で乗せると、粗利率が元のまま保たれます。 550円 ÷ 880円 = 62.5%。 現状とぴったり同じです。しかも粗利総額は180万円から198万円に増えるので、 固定費150万円が変わらないぶん、利益は30万円から48万円(1.6倍)になります。
目的ではなく結果の数字
ここが経営の原資
最初の図(現状)と見比べると、帯の割合はまったく同じで、全体が一回り大きくなっているのが分かります。 これが「率で転嫁する」ということです。額を守るなら30円、率を守るなら80円。 どちらを選ぶのかを、先に決めてください。
「客が減っても大丈夫な線」を先に出す
現実には、値上げすれば多少は客が減ります。判断すべきは 何割減るまでなら、今より損しないかです。
これは割り算1回で出ます。値上げ後の1個あたり粗利で、今の粗利総額を割るだけです。
必要な数量 = 現状の粗利総額180万円 ÷ 値上げ後の1個あたり粗利580円 = 3,104個
いまが3,600個なので、3,104個まで(13.8%減)落ちても、利益は今と変わりません。 1割値上げして、お客さんが1割減っても、会社に残るお金はむしろ増えるということです。
同じ計算を値引き側でやると、事情はまったく逆になります。
必要な数量 = 180万円 ÷ 値引き後の1個あたり粗利420円 = 4,286個
1割値引きしたら、今より19.1%多く売って、ようやく現状維持です。 働く量が2割増えて、残るお金は同じ。これが安売りの正体です。
| 打ち手 | 1個あたり粗利 | 現状維持に必要な数量 | 今との差 |
|---|---|---|---|
| 1割値上げ | 580円 | 3,104個 | 13.8%減っても大丈夫 |
| 現状 | 500円 | 3,600個 | — |
| 1割値引き | 420円 | 4,286個 | 19.1%多く売る必要 |
「何%上げるか」も逆算で決める
周りが上げたから、コストが上がったから、という理由で決めると、上げ幅に根拠が残りません。 GYAKUSAN の考え方では、残したい利益から逆算します。
来期は月50万円の利益を残したいとします。順番はこうです。
- 必要な粗利総額 = 残したい利益50万円 + 固定費150万円 = 200万円
- 必要な1個あたり粗利 = 200万円 ÷ 3,600個 = 556円
- 必要な単価 = 556円 + 原価300円 = 856円
「利益を50万円残すには、単価856円が要る」という具体的な線が出ました。 ここまで来て初めて、860円にするか、原価を少し下げて850円で収めるか、という判断ができます。
この「残したい利益から必要な数字を降ろしていく」順番は、 経営計画の立て方で全社の計画として解説しています。 また、必要な販売数を1日あたりまで落とす手順は 損益分岐点は「売上高」で止めるなにまとめました。
値上げできないときに見るべき順番
どうしても単価を動かせない事情もあります。その場合の打ち手は2つですが、効き方が違います。
| 打ち手 | 1個あたり粗利への影響 | 限界 |
|---|---|---|
| 原価(V)を下げる | 下げた額がそのまま粗利に乗る(値上げと同じ効果) | 仕入れ先・品質の制約で幅が限られる |
| 固定費(F)を下げる | 粗利は増えない。 必要な粗利総額が減るだけ | 削れる額に限りがあり、削りすぎると売る力が落ちる |
固定費の削減は「守り」です。稼ぐ力そのものは変わりません。 一方、単価と原価は1個売るたびに効き続けるので、効果が数量ぶん掛け算になります。 先に見るべきは単価、次に原価、最後に固定費、という順番です。
まとめ
- 値上げした金額には原価がついてこないため、上げた分がまるごと利益に乗る
- モデル例では1割の値上げで利益が30万円→58.8万円(約2倍)、1割の値引きで1.2万円
- 原価が上がったのに値段を据え置くと、利益は36%減る。上昇分だけ乗せても元に戻るだけ
- 額を守るなら上昇分、率を守るなら同じ率を乗せる。率で転嫁すれば粗利率は変わらない
- 怖いのは客数減。何割まで減っても損しないかを先に計算する(今の粗利総額 ÷ 値上げ後の1個あたり粗利)
- 上げ幅は勘で決めず、残したい利益から必要な単価を逆算する
自社の単価・原価・固定費・残したい利益を入れると、必要な販売数と手元に残る現金まで その場で計算できます。値上げ後の数字を入れて、今の計画と見比べてみてください。
