経営計画は、売上目標からではなく「残したい利益」から作る。 これがこの記事の結論です。

多くの会社の経営計画は「来期の売上は今期の110%」のように売上から始まります。 しかしこの順番だと、利益は売上から費用を引いた「余り物」になります。 余り物なので、費用が少し膨らんだだけで簡単に消えます。

順番を逆にして、利益 → 固定費 → 必要な粗利 → 必要な売上 → 何を何個売るか、 と降りていくのが「逆算の経営計画」です。この記事では、その手順を実際の数字で追いかけます。

なぜ「売上から」の計画は失敗するのか

売上先行の計画には、構造的な欠陥が2つあります。

  1. 利益が誰の目標にもならない。 「売上1億円」は掲げられても、「利益500万円」は結果として出てくるだけ。誰もその数字に責任を持ちません。
  2. 売上目標の根拠が「前年比」しかない。 前年比110%という数字には「なぜ110%必要なのか」の答えがありません。根拠のない目標は、未達でも誰も痛みを感じません。

逆算の計画では、出発点が「会社が生き残り、次の投資をするために必要な利益」なので、 そこから導かれる売上目標には、「これを下回ると会社が回らない」という根拠が生まれます。

逆算の手順 — 5つの記号だけ覚える

覚えることは5つだけです。損益計算書が読めなくても問題ありません。 かっこの中のアルファベットは、この考え方(MQ会計)で使われる記号です。 記事の中では毎回セットで書きますので、記号を覚える必要はありません。

用語意味
単価(P)いくらで売るか800円
原価(V)1個にいくらかかるか300円
数量(Q)何個売るか?
固定費(F)売れても売れなくてもかかるお金家賃・人件費など
経常利益(G)最後に会社に残るお金ここから決める

計算の骨格は、次の2本の式だけです。

  • 粗利総額(MQ)=(単価 − 原価)× 数量 … 会社が稼いだお金
  • 経常利益(G)= 粗利総額 − 固定費 … 最後に残るお金

逆算では、この式を逆向きに使います。

数字例:利益500万円を残したい会社

モデルとして、固定費が年間2,000万円の会社で考えます。

Step 1. 残したい利益(G)を決める

来期は 経常利益(G)= 500万円 を残すと決めます。 最低ラインの目安は「借入金の年間返済額 − 減価償却費」。 利益がこれを下回ると、帳簿上は黒字でも現金は減っていきます。

Step 2. 固定費(F)を確定する

人件費・家賃・水道光熱費など、売上に関係なく出ていくお金の合計です。 この会社では 固定費(F)= 2,000万円

Step 3. 必要な粗利総額が自動的に決まる

必要な粗利総額(MQ)= 経常利益(G)+ 固定費(F)= 500万円 + 2,000万円 = 2,500万円

ここが逆算の心臓部です。会社は売上ではなく粗利で生きています。 固定費を払い、利益を残すために必要な粗利は、計算で確定します。予測ではありません。

Step 4. 必要な売上に換算する

粗利率が50%の会社なら:

必要売上(PQ)= 必要な粗利総額(MQ)2,500万円 ÷ 粗利率50% = 5,000万円

「売上5,000万円」という目標が、初めて根拠つきで出てきました。 前年比でも願望でもなく、「これを下回ると利益500万円は残らない」という線です。

ここまでを1枚の図にすると、こうなります。

利益500万円を残すための逆算(モデル例)
売上5,000万円のうち半分の2,500万円は変動費として出ていき、残った粗利2,500万円で固定費2,000万円を払って、500万円が手元に残ります。目標利益(G)と固定費(F)から 必要な粗利総額(MQ)を出し、 想定の粗利率 50.0% で割って必要売上(PQ)を求めています。

この図の読み方は左から右です。総売上(PQ)がまず変動費(VQ)と粗利総額(MQ)に分かれ、 その粗利総額が固定費(F)と経常利益(G)に分かれます。 逆算では、この図を右下の経常利益(G)から左に向かって組み立てていきます。

Step 5. 何を何個売るかまで降ろす

単価800円・原価300円(1個あたり粗利500円)の商品で稼ぐなら:

必要販売数 = 2,500万円 ÷ 500円 = 50,000個/年

年間250日営業なら 1日あたり200個。 ここまで降ろすと、経営計画は「スローガン」から「今日の行動の数」に変わります。 1日180個しか売れていなければ、その日のうちに未達が分かります。

部門がある会社は「固定費の均等割り」をしてはいけない

複数の部門や店舗がある会社で計画を部門に降ろすとき、 本社の家賃や社長の給与を頭数で各部門に割り振るやり方が広く行われています。 私たちはこれを推奨しません。

均等割りされた部門は、自分では1円も動かせない費用の責任を負わされます。 その瞬間、部門目標は「納得できない他人事」になります。

代わりに、部門に配るのはその部門に明確に紐づく固定費(直課分)だけにして、 残りは「本社共通の固定費」として全社に残します。 そして部門が追いかける数字は、自分の商売で動かせる粗利総額にします。 全部門の粗利目標を合計すると全社の必要粗利にちょうど一致する—— この整合性が取れているかどうかが、計画が「絵に描いた餅」かどうかの分かれ目です。

まとめ:計画の良し悪しは「整合性」で決まる

  • 利益は余り物にしない。残したい額を先に決める
  • 必要粗利 = 利益 + 固定費。ここは予測ではなく計算
  • 売上目標は粗利から換算して初めて根拠を持つ
  • 商品の必要販売数、できれば「1日あたり何個」まで降ろす
  • 全社 ⇄ 部門 ⇄ 商品の数字が過不足なくつながっているかを必ず検算する

手で計算すると、部門への配分や端数で必ずどこかが合わなくなります。 この一連の逆算と整合性チェックを自動で行うのが、無料シミュレーター GYAKUSAN です。 自社の固定費と残したい利益を入れると、必要粗利から商品ごとの必要販売数までその場で出ます。