損益分岐点は「売上高◯◯円」で止めず、「1日あたり何個売れば黒字か」まで落とす。 これがこの記事の結論です。
「損益分岐点売上高は月商250万円です」と言われて、明日の仕事が変わる社長はいません。 数字が行動に変わるのは、1日120個。昼までに60個売れていなければ危ない、という形になったときです。
教科書の公式が「ピンとこない」理由
損益分岐点売上高の公式は、教科書ではこう書かれています。
損益分岐点売上高 = 固定費 ÷ (1 − 変動費率)
この式は正しいのですが、2つの理由で現場では使いにくいものです。
- 変動費「率」が直感に反する。 社長が肌感覚で知っているのは「この弁当は1個作るのに300円かかる」であって、「変動費率37.5%」ではありません。
- 答えが売上高で出てくる。 「月商250万円」は結果の数字であって、行動の数字ではありません。何をどれだけ売れば250万円になるのかは、まだ分かりません。
「個数」で計算し直す
式を1個あたりに組み替えます。使う数字は3つだけです。
| 用語 | 意味 | 例(弁当店) |
|---|---|---|
| 単価(P) | いくらで売るか | 800円 |
| 原価(V) | 1個あたり変動費(材料費・容器など) | 300円 |
| 固定費(F) | 月の固定費(家賃・人件費・水道光熱費など) | 150万円 |
かっこの中のアルファベットは、この考え方(MQ会計)で使われる記号です。 記事の中では毎回セットで書きますので、記号を覚える必要はありません。
1個売ると、会社には 単価800円 − 原価300円 = 500円 の粗利が残ります。 固定費150万円をこの粗利で払いきった瞬間が損益分岐点です。つまり:
損益分岐点の個数 = 固定費 ÷(単価 − 原価)= 150万円 ÷ 500円 = 3,000個/月
この関係を図にすると、次のようになります。
損益分岐点を「売上240万円」と覚えるより、縦の500円と横の3,000個で覚えるほうが、 値上げや原価削減の効き方まで一目で分かります。 単価を50円上げれば線の傾きが急になり、交点は左(=より少ない個数)へ動きます。
月25日営業なら 1日120個 です。 「月商250万円」より、「1日120個」のほうが圧倒的に行動につながります。 昼の時点で60個に届いていなければ、その日のうちに手が打てるからです。
黒字ではなく「目標利益」で計算する
損益分岐点ちょうどでは、利益はゼロです。ゼロを目指す経営はありません。 実際に使うときは、固定費に残したい利益を足して計算します。
月に30万円の利益を残したいなら:
必要個数 =(固定費 + 目標利益)÷(単価 − 原価)=(150万円 + 30万円)÷ 500円 = 3,600個/月(1日144個)
この「固定費+目標利益を、1個あたりの粗利で稼ぎ切る」という発想が、 利益から逆算する経営計画の入口です。 損益分岐点は「越えるべき最低ライン」、目標達成個数は「狙うライン」。2本の線を持ってください。
損益分岐点を下げる3つのレバー
必要個数の式「固定費 ÷(単価 − 原価)」を見ると、打ち手は3つしかないことが分かります。
| レバー | 例 | 効き方 |
|---|---|---|
| 固定費(F)を下げる | 家賃交渉・サブスク整理 | 分子が減る。ただし削れる幅には限界がある |
| 単価(P)を上げる | 値上げ・セット化 | 1個あたり粗利に全額乗る。最も効く |
| 原価(V)を下げる | 仕入れ見直し・ロス削減 | 1個あたり粗利が増える |
例の弁当店が単価を800円→880円にできれば、1個あたり粗利は500円→580円になり、 損益分岐点は3,000個→約2,586個。1日あたり17個ぶん楽になります。
「10%の値上げ」と「10%の売上増」は、まったく別のことです
この2つは同じくらいの努力に見えて、会社に残るお金がまるで違います。 例の弁当店(単価800円・原価300円・月3,000個・売上240万円)で、 売上を264万円(=10%増)にする3つのやり方を並べてみます。
| やり方 | 単価 × 数量 | 1個あたり粗利 | 増えた粗利 |
|---|---|---|---|
| 値上げ | 880円 × 3,000個 | 580円 | +24万円 |
| 数量増 | 800円 × 3,300個 | 500円 | +15万円 |
| 値引き | 720円 × 3,667個 | 420円 | +4万円 |
売上はどれも同じ264万円です。それでも手元に残る粗利は、 174万円・165万円・154万円と差がつき、増えた額で見れば6倍違います。
理由は、値上げした80円には原価がついてこないからです。 単価を80円上げると、その80円はまるごと1個あたり粗利(M)に乗ります。 一方、数量を増やして売上を伸ばす場合、増えた売上には必ず原価がついてきます。 1個多く売っても、手元に残るのは原価300円を引いた500円ぶんだけです。
3つ目はさらに悪くなります。1割引きすると1個あたり粗利が500円→420円に減るため、 売上を10%増やすには22%も多く作って売る必要があります。 働く量が一番増えて、残る粗利が一番少ない。安売りとはそういう選択です。
だから「売上を10%上げる」は目標として危険です
上の3つは、どれも「売上10%増」を達成しています。 つまり売上を目標にすると、値上げでも、増販でも、安売りでも合格になってしまうわけです。 そして現場は、たいてい一番やりやすい安売りに流れます。
持つべき目標は売上ではなく、粗利総額(MQ)です。 「粗利を24万円増やす」という目標なら、安売りでは絶対に達成できません。
商品が複数ある場合の注意
商品が何種類もある会社で「平均単価と平均原価」を使って1本の式で計算すると、 商品構成が変わった瞬間に答えがずれます。
正しい順番は、逆算です。
- 会社全体で必要な粗利総額を出す(固定費 + 目標利益)
- それを部門・商品ごとの粗利額の目標に配分する
- 各商品の1個あたり粗利で割って、商品ごとの必要個数にする
- 配分の合計が全体の必要粗利と一致しているか検算する
この検算(全社 ⇄ 部門 ⇄ 商品の整合性チェック)を省くと、 各商品の目標を全部達成したのに会社全体では未達、という事故が起きます。
まとめ
- 損益分岐点は売上高ではなく個数で出す:固定費(F)÷(単価(P)− 原価(V))
- さらに1日あたりまで落とすと、当日中に手が打てる数字になる
- 実務では固定費に目標利益を足した「目標達成個数」を使う
- 打ち手は固定費・単価・原価の3つ。最も効くのは単価
- 複数商品は平均でまとめず、粗利総額の配分から個数へ逆算する
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