小売店の粗利率の目安は、いくら売るかを決める数字ではありません。自店の位置を比べるための数字です。
粗利率は計画の前提ではなく結果です。だから目安との差を埋める前に、いまの粗利率で必要売上がいくらになるかを先に出します。これがこの記事の結論です。
粗利率は結果で、前提ではない
業種の平均を調べ、自店がそれより低いことを確かめて、そこで止まる。小売の計画づくりでよく起きる止まり方です。
粗利率は、売上総利益を売上高で割った答えです。
粗利率 = 売上総利益 ÷ 売上高
割り算の答えなので、計算する前に値を決めることはできません。決まるのは、何をいくらで仕入れ、いくらで売り、どれだけ値札どおりに売れたかの後です。
生活雑貨の小売店を1店置きます。直近3期の実績です(モデル例)。
| 期 | 売上高 | 売上総利益 | 粗利率 |
|---|---|---|---|
| 3期前 | 7,600万円 | 2,204万円 | 29.0% |
| 2期前 | 7,800万円 | 2,184万円 | 28.0% |
| 前期 | 8,000万円 | 2,240万円 | 28.0% |
売上高は3期で400万円増えました。一方で粗利率は29.0%から28.0%へ、1ポイント下がっています。
この1ポイントは、後の計算で必要売上を約300万円動かします。率と額のどちらで見るかの整理は、粗利と利益の違いにまとめています。
目安の数字は何に使えるのか
目安でできることは1つです。自店がその並びのどこにいるかを知ることです。
比べる相手を仮に30.0%の並びに置きます(モデル例)。自店の位置を測るための仮の値で、業種の平均値ではありません。
この記事は業種平均の数値を出しません。自店の業種の実際の並びは、中小企業庁「中小企業実態基本調査」の業種別の売上総利益率で確認します。
計画に使う粗利率は、その並びではなく自店の決算書から取ります。前期の自店は28.0%なので、仮に置いた30.0%との差は2.0ポイントです。
ここから読めるのは、比べた相手より薄いということだけです。薄い理由までは分かりません。
取扱品目・業態・店の規模が違えば、粗利率は同じ小売でも大きく動きます。この店でも、まとめ買いの箱売りで値札1,000円の商品を10個のうち2個だけ2割引にすると、粗利率は30.0%から27.1%へ下がります。後半の表でその続きを並べます。
目安は比べる道具で、決める道具ではありません。 平均まで上げることを目標に置くと、いくら売るかが決まらないまま期が始まります。
決める順番は、利益と固定費が先
この店の固定費を2,000万円、翌期に残したい経常利益(G)を500万円とします(モデル例)。
必要な粗利総額 = 残したい経常利益500万円 + 固定費2,000万円 = 2,500万円
2,500万円は予測ではなく足し算の答えです。ここまで粗利率は1度も出てきません。
粗利率が入るのは、次の1回だけです。
必要売上 = 必要な粗利総額 ÷ 粗利率
自店の28.0%で割ると、必要売上は8,928.6万円になります。前期の8,000万円から928.6万円、率にして11.6%の上積みです。
目的ではなく結果の数字
ここが経営の原資
売上を目標に置かず、最後に出す。この順番の全体は経営計画を逆算で作るに手順として書きました。
1ポイントの差は必要売上をどう動かすか
粗利率が薄い店では、1ポイントの置き間違いが必要売上を数百万円動かします。必要な粗利総額2,500万円を固定したまま、粗利率だけを入れ替えます。表の粗利率は、比べる相手に置いた30.0%も含めてすべて仮の値です(モデル例)。
| 粗利率 | 必要売上 | 28.0%との差 |
|---|---|---|
| 30.0% | 8,333.3万円 | −595.3万円 |
| 29.0% | 8,620.7万円 | −307.9万円 |
| 28.0% | 8,928.6万円 | — |
| 27.0% | 9,259.3万円 | +330.7万円 |
| 26.0% | 9,615.4万円 | +686.8万円 |
| 25.0% | 10,000万円 | +1,071.4万円 |
30.0%から29.0%への1ポイントは287.4万円の差です。26.0%から25.0%への1ポイントは384.6万円になります。割る数が小さいほど、答えの振れが大きくなるためです。
粗利率が薄いほど、この差は大きく出ます。粗利率を「だいたい3割」と丸めたまま計画を作ってはいけない、というのはこの表の読み方です。「だいたい3割」と28.0%の2ポイント差なら595.3万円、28.0%と26.0%の2ポイント差なら686.8万円ずれます。
粗利率を削るのは値引きと処分と廃棄
薄くなる原因は仕入の条件だけではありません。小売では、仕入れた後の売り方が率を削ります。
値札1,000円・仕入700円の商品を10個仕入れた場合で並べます(モデル例)。
| 売り方 | 売上 | 仕入 | 粗利 | 粗利率 |
|---|---|---|---|---|
| 10個すべて値札どおり | 10,000円 | 7,000円 | 3,000円 | 30.0% |
| うち2個を2割引 | 9,600円 | 7,000円 | 2,600円 | 27.1% |
| さらに1個を半額で処分 | 9,100円 | 7,000円 | 2,100円 | 23.1% |
| さらに1個を廃棄 | 8,100円 | 7,000円 | 1,100円 | 13.6% |
どの行でも仕入は7,000円のまま動きません。減っているのは粗利のほうです。
最後の行で売れたのは9個です。仕入7,000円を9個で割り直すと、売れた1個が背負う原価(V)は777.8円まで上がります。
つまり値引き・処分・廃棄は、1個あたりの原価が上がったのと同じ形で効きます。棚のロスは仕入交渉の問題ではなく、売り方の問題として数えます。
どの商品で値引きと廃棄が起きているかを1品ずつ見る手順は、単品管理のやり方にあります。
自店の目安はどこから取るのか
外から借りずに、決算書から取ります。必要なのは2行だけです。売上高と売上総利益を割れば、自店の粗利率が出ます。
直近3期を並べたうえで、計画の想定に置くのは前期の実績です。この店なら28.0%になります。
29.0%へ戻す打ち手があるなら、計画を作った後に別で立てます。想定を先に29.0%へ上げると、必要売上は8,620.7万円へ下がります。それは307.9万円ぶんの値引き削減を、済んだことにする操作です。
GYAKUSAN では、入力した想定の粗利率がそのまま必要売上の計算に効きます。販売計画から出た実際の粗利率は別に併記され、想定を上書きしません。目標と実際を同じ欄に混ぜると、届いていないことが見えなくなるためです。
まとめ
- 粗利率は売上総利益を売上高で割った結果で、計画の前提には置けない
- 業種の目安は自店の位置を比べる道具で、いくら売るかを決める道具ではない
- 決まる順番は、残したい利益と固定費から必要な粗利総額、最後に必要売上
- 粗利率が薄いほど1ポイントが重い。28.0%の前後では約300万円動いた(モデル例)
- 値引き・半額処分・廃棄は仕入を変えずに粗利だけを削り、原価が上がったのと同じ形で効く
今日やることは1つです。決算書の売上高と売上総利益を割って、自店の粗利率を1つの数字にします。
GYAKUSAN を使うと、粗利率を入れ替えた必要売上が並ぶ
無料シミュレーター GYAKUSAN は、残したい経常利益と固定費から先に計算します。出るのは必要な粗利総額と必要売上です。想定の粗利率を入れ替えると、必要売上だけが動きます。登録は要らず、入れた数字はサーバーに送られません。
| 入れる数字 | GYAKUSAN が出す数字 |
|---|---|
| 残したい経常利益(G)500万円と固定費(F)2,000万円 | 必要な粗利総額 2,500万円 |
| 想定の粗利率 28.0% | 必要売上 8,928.6万円と変動費 6,428.6万円 |
| 想定の粗利率 26.0% に入れ替え | 必要売上 9,615.4万円 |
| 現状の売上 8,000万円 | 必要売上との差 928.6万円 |
この記事のモデル例をそのまま入れると、こうなります。
経常利益500万円 + 固定費2,000万円 = 必要な粗利総額 2,500万円(粗利率28.0%で必要売上8,928.6万円)
粗利率を26.0%へ置き替えると、必要売上は 9,615.4万円。28.0%との差は686.8万円です
