粗利は「稼いだお金」、利益は「残ったお金」です。 順番は粗利が先で、経営判断で最初に見るべきなのも粗利のほうです。
決算書を見ると利益の欄に目が行きます。ただ、利益は結果であって、 そこから打ち手は出てきません。動かせるのは、その一段手前にある粗利です。
言葉の整理 — 5つの段を上から降りる
| 段 | 用語 | 意味 |
|---|---|---|
| 1 | 売上 | お客様からいただいた総額 |
| 2 | 変動費 | 売れた分だけ増える費用(仕入・材料・外注など) |
| 3 | 粗利総額 | 売上 − 変動費。会社が稼いだお金 |
| 4 | 固定費 | 売れても売れなくてもかかるお金(家賃・人件費など) |
| 5 | 経常利益 | 粗利総額 − 固定費。最後に残ったお金 |
粗利と利益の間にあるのは固定費だけです。つまり、 粗利をいくら稼ぎ、そこから固定費をいくら払うかという引き算の関係にあります。
なお「限界利益」という言葉もほぼ同じものを指します。実務では 売上から変動費を引いた金額、と統一して考えて差し支えありません。
同じ売上でも、実力はまったく違う
売上5,000万円の会社を2社並べます(仮設のモデル例です)。
A社:粗利率50%
目的ではなく結果の数字
ここが経営の原資
B社:粗利率30%
目的ではなく結果の数字
ここが経営の原資
| A社 | B社 | |
|---|---|---|
| 売上 | 5,000万円 | 5,000万円 |
| 粗利総額 | 2,500万円 | 1,500万円 |
| 固定費 | 2,000万円 | 1,200万円 |
| 経常利益 | 500万円 | 300万円 |
売上はまったく同じです。 それでも稼いだお金は1,000万円違い、 払える固定費の上限も違います。人を増やせるか、広告を打てるか、 設備を入れられるか——それを決めているのは売上ではなく粗利総額です。
「売上◯億円の会社」という言い方に実力の情報がほとんど無いのは、このためです。
粗利「率」が高くても、会社は潰れます
ここが実務でいちばん誤解されるところです。固定費は率では払えません。額で払います。
固定費800万円の会社で、2つのやり方を比べます。
| 売上 | 粗利率 | 粗利総額 | 固定費 | 経常利益 | |
|---|---|---|---|---|---|
| X社 | 1,000万円 | 70% | 700万円 | 800万円 | −100万円(赤字) |
| Y社 | 2,500万円 | 40% | 1,000万円 | 800万円 | +200万円 |
粗利率が高いX社が赤字で、率の低いY社が黒字です。 理由は単純で、800万円の家賃と給与は「70%」では払えず、 700万円という額では足りないからです。
- 率は、商品ごとの良し悪しや、値上げ・値引きの影響を見るための物差し
- 額は、会社が生き残れるかを決める物差し
目標として掲げるのは、必ず粗利総額(額)にしてください。 率だけを追いかけると、利益率の低い商品を切り続けた結果、 率は上がったのに額が足りず赤字、という縮小に向かいます。
売上を目標にすると、なぜ危ないのか
粗利を見ずに売上だけを目標にすると、値引きしてでも数を売る動きが正当化されます。 売上目標は達成できても、稼いだお金は減っていきます。
同じ「売上10%増」でも、値上げで達成した場合と値引きで達成した場合とでは、 増える粗利が数倍変わります。その計算は 値上げで利益はどれくらい変わるかで数字を並べました。
粗利総額を目標にすれば、値引きでは達成できません。 これが、 現場の行動と会社の利益を同じ方向へ向ける、いちばん簡単な方法です。
粗利から逆算すると、目標が具体的になる
粗利と利益の関係は引き算なので、逆向きにも使えます。
必要な粗利総額 = 残したい利益 + 固定費
残したい利益500万円・固定費2,000万円なら、必要な粗利総額は2,500万円。 粗利率50%なら必要な売上は5,000万円です。この順番で降ろしていくと、 売上目標に「これを下回ると会社が回らない」という根拠が生まれます。 手順は経営計画の立て方にまとめています。
残したい利益そのものをいくらに設定するかは、 目標利益の決め方で借入返済から積み上げる手順を解説しました。
まとめ
- 粗利は稼いだお金、利益は残ったお金。間にあるのは固定費だけ
- 同じ売上でも粗利総額が違えば、払える固定費も残る利益もまったく違う
- 固定費は率ではなく額で払う。粗利率が高くても額が足りなければ赤字になる
- 目標として持つのは粗利総額。売上を目標にすると値引きでも達成できてしまう
- 必要な粗利総額 = 残したい利益 + 固定費。ここから売上と販売数へ降ろす
自社の売上・変動費・固定費を入れると、粗利総額と経常利益のつながりが1枚の図になります。 粗利率を動かしたときに必要な売上がどこまで変わるかも、その場で確認できます。
