減価償却費は、もう払い終えたお金を後から費用として分けているだけです。 だからその年に現金は1円も出ていきません。

「費用なのに現金が減らない」という言い方は、慣れないうちは禅問答のように聞こえます。 実際には仕組みは単純で、払うタイミングと費用にするタイミングがずれているだけです。

車を1台買った年と、その後の4年間

300万円の車を買い、5年かけて使うとします。減価償却費は年60万円です(定額法・仮設の例)。

口座から出た現金費用に計上する額
1年目(購入年)300万円60万円
2年目0円60万円
3年目0円60万円
4年目0円60万円
5年目0円60万円
合計300万円300万円

5年を通せば、出ていった現金も計上した費用も同じ300万円です。 違うのはタイミングだけで、2年目以降は「費用は出るのに現金は出ない」年が続きます。

この2年目以降の状態が、費用なのに現金が減らないの正体です。

だから「税引後利益 + 減価償却費」が手元に残る

損益計算書の利益は、この減価償却費を引いたあとの数字です。 現金の話をするときは、引いた分を足し戻す必要があります。

モデルとして、経常利益500万円・固定費2,000万円・粗利率50%の会社で考えます。

経常利益500万円を目指す会社(モデル例)
赤枠の固定費2,000万円の中に、減価償却費200万円が含まれています。この200万円は費用として利益を減らしていますが、現金は出ていきません。目標利益(G)と固定費(F)から 必要な粗利総額(MQ)を出し、 想定の粗利率 50.0% で割って必要売上(PQ)を求めています。

この会社に手元に残る現金は、次のように計算します。

金額
経常利益500万円
法人税等(30%)−150万円
税引後利益350万円
減価償却費を足し戻す+200万円
手元に残る現金550万円

利益は500万円ですが、実際に手元に残るのは550万円です。 利益より現金のほうが多くなる、この効果を自己金融効果と呼びます。 設備投資の多い会社ほど、この差が大きくなります。

ただし、この550万円は「余っているお金」ではない

ここがいちばん間違えやすいところです。 足し戻した200万円は、自由に使えるお金ではありません。

車は5年経てば買い替えが必要になります。そのとき手元に300万円が無ければ、 また借りるしかありません。減価償却費は、次の設備を買うための積立なのです。

毎年の200万円をどう扱うか5年後に起きること
取っておく積み上がった1,000万円で次の設備を買える
運転資金として使い切る買い替えの時期に手元が空。借入に頼るしかない

決算書には「積立」という科目は出てきません。だから意識していないと、 知らないうちに使ってしまいます。減価償却費の分は、無かったことにして経営する くらいでちょうどよいと考えています。

借入返済と並べると、必要な利益が見えてくる

手元に残る550万円から、借入金の元本返済が出ていきます。返済が年600万円なら、こうです。

550万円 − 600万円 = −50万円

経常利益500万円の黒字でも、預金は年50万円ずつ減っていきます。 この構造は黒字なのに現金がない理由で 4つの原因として整理しました。

逆に言えば、返済に必要な利益は計算で出せます

必要な経常利益 =(年間返済額 − 減価償却費)÷(1 − 税率)

この式が目標利益の最低ラインになります。ここに設備投資と備えを積み上げる手順は 目標利益の決め方にまとめました。

減価償却費は F5。固定費の一部として扱う

GYAKUSAN では固定費をF1〜F5に分けており、減価償却費はF5にあたります。

費目現金
F1人件費出ていく
F2経費(家賃・水道光熱費など)出ていく
F3営業外費用(支払利息など)出ていく
F4戦略費(広告・研修など)出ていく
F5減価償却費出ていかない

固定費の中でF5だけが性質の違う費目です。分けて持っておくと、 「利益はいくらか」と「現金はいくら残るか」を同じ数字から両方出せます。

まとめ

  • 減価償却費は買った年に払い終えたお金を、使う年数に分けて費用にしているだけ
  • だから2年目以降は「費用は出るのに現金は出ない」。これが自己金融効果
  • 手元に残る現金の目安は税引後利益 + 減価償却費
  • 足し戻した分は次の設備の積立。使い切ると買い替えで借入に頼ることになる
  • 返済がある会社は「(返済額 − 減価償却費)÷(1 − 税率)」が目標利益の最低ライン

無料シミュレーターでは、目標利益と固定費(F1〜F5)を入れると、 税引後に手元へ残る現金まで自動で計算されます。減価償却費をF5に入れておけば、 利益と現金のどちらも同じ画面で確認できます。