目標利益は「いくら欲しいか」ではなく、「いくら必要か」で決まります。 返済・投資・備えを積み上げれば、根拠のある金額が計算で出ます。

経営計画は残したい利益から逆算する——これは 経営計画の立て方で解説したとおりです。 ただ、そこで多くの経営者が止まります。「その利益を、いくらに設定すればいいのか」が 分からないからです。この記事は、その一点だけを扱います。

「同業の平均」で決めてはいけない

よくあるのが、業界平均の経常利益率や「売上の5%」といった目安を持ってくるやり方です。 参考にはなりますが、目標を決める根拠にはなりません

平均値には、その会社の事情が何ひとつ入っていないからです。

  • いくら借りていて、毎年いくら返しているのか
  • 来期、何を買い替えなければならないのか
  • 手元にどれだけ現金を積んでおきたいのか

借入が3億円ある会社と、無借金の会社。同じ売上でも、必要な利益はまったく違います。 必要額は会社の数だけあります。 平均から借りてきた数字には、 「なぜその額なのか」に答えがありません。根拠のない目標は、未達でも誰も痛みを感じません。

目標利益は4段階で積み上げる

順番はこうです。①から③までを足し、最後に④で税金を戻します。

① 最低ライン:借入金の年間返済額 − 減価償却費

まずここが土台です。利益がこの額を下回ると、黒字でも現金が減っていきます。

借入金の返済(元本部分)は費用ではないので、損益計算書には出てきません。 それでも口座からは確実に出ていきます。その原資になるのが利益です。

一方、減価償却費は費用として利益を減らしますが、現金は1円も出ていきません。 その分は手元に残るので、返済に充てられます。詳しくは 黒字なのに現金がない理由にまとめました。

モデル例:年間返済額600万円 − 減価償却費200万円 = 400万円

② 来期の設備投資のうち、自己資金で賄う分

車両の入れ替え、厨房機器、システム。借入で賄わない部分は、利益から出すことになります。

モデル例:来期に入れ替える車両のうち自己資金部分 = 150万円

③ 万一への備え

売上が急に落ちたとき、何ヶ月持ちこたえられるか。手元資金を厚くしたいなら、 その積み増しぶんも利益から出ます。

モデル例:固定費のおよそ1ヶ月分を積み増す = 200万円

④ 税金を戻す

ここが抜けやすいところです。①〜③はすべて税金を払った後に必要なお金です。 ところが目標として掲げる経常利益は税引前の数字なので、税金分を割り戻さないと足りません。

実効税率を30%とすると、税引後に750万円を残すために必要な税引前の利益は次のとおりです。

750万円 ÷(1 − 30%)= 1,071.4万円 → 切り上げて 1,080万円

端数は切り上げます。足りないより多いほうが安全だからです。

段階内容金額
借入返済600万円 − 減価償却費200万円400万円
設備投資の自己資金分150万円
万一への備え(固定費の約1ヶ月分)200万円
税引後に必要な額750万円
税金を戻す(÷ 70%・10万円単位で切り上げ)1,080万円

「来期の経常利益は1,080万円」という数字に、これで根拠が生まれました。 前年比でも願望でもなく、「これを下回ると返済と投資が回らない」という線です。

決まった目標から、必要な売上まで降ろす

目標利益が決まれば、あとは逆算するだけです。固定費が年間2,400万円、 粗利率が58%の会社なら、こうなります。

必要な粗利総額 = 目標利益1,080万円 + 固定費2,400万円 = 3,480万円 必要な売上 = 3,480万円 ÷ 58% = 6,000万円

目標利益1,080万円から逆算した来期の計画(モデル例)
赤枠の経常利益1,080万円は、返済・投資・備えから積み上げた必要額です。そこに固定費2,400万円を足した3,480万円が稼ぐべき粗利総額で、粗利率58%で割り戻すと必要な売上6,000万円が出ます。目標利益(G)と固定費(F)から 必要な粗利総額(MQ)を出し、 想定の粗利率 58.0% で割って必要売上(PQ)を求めています。

図の一番下の帯が、いま計算した1,080万円です。この帯の高さを先に決めてから、 上の帯を組み立てていくのが逆算の順番になります。

出した目標が高すぎたときにやること

計算してみたら必要売上が今の実力の1.5倍だった、ということは普通に起きます。 そのときに目標利益を下げてつじつまを合わせるのは、最後の手段にしてください。 検討する順番は次のとおりです。

順番打ち手効き方
1粗利率を上げる必要売上が下がる。単価を1割上げるだけで大きく動く
2固定費を見直す必要な粗利総額が直接減る。ただし削れる幅には限界がある
3備えの積み立て期間を延ばす③を2年に分ければ、単年の目標は100万円下がる
4目標利益を下げる最低ラインまで。ここから先は下げられない

粗利率の効き方については、 値上げで利益はどれくらい変わるかで 1割の値上げが利益に与える影響を数字で追いかけています。

下げられないのは①だけです。 「借入返済 − 減価償却費」を下回る計画は、 たとえ達成できても現金が毎年減っていく計画です。②や③は先送りできますが、 ①を削るのは先送りではなく、返済の破綻に向かって歩くことになります。

まとめ

  • 目標利益は欲しい額ではなく、返済・投資・備えから積み上げた必要額
  • 最低ラインは借入金の年間返済額 − 減価償却費。下回ると黒字でも現金が減る
  • ①〜③は税引後に必要な額なので、最後に税金分を割り戻す(÷ 70% など)
  • 同業平均は根拠にならない。借入も投資予定も会社ごとに違うため
  • 高すぎたら、粗利率 → 固定費 → 積立期間 の順に調整し、最低ラインは下げない

自社の借入返済額と固定費を入れれば、必要な粗利総額・売上・商品ごとの必要販売数まで 一続きで出ます。まずは最低ラインの利益を入れて、その売上が届く数字かどうかを見てください。