粗利をいくら稼ぐかを決めるのは戦略で、経営者の仕事です。 ですが、その粗利を実際に作るのは現場です。
「今期は粗利を900万円」。大局を見て決められるのは、ここまでです。 ところが「粗利を900万円」と言われて動ける現場は、どこにもありません。 その900万円を稼ぐのは売り場であり、営業であり、明日一日の動きだからです。
現場が動けるのは、こういう言葉です。
- 「B を、あと2,000個」
- 「A を100円値上げできれば、粗利が20万円増える」
- 「D は22個売れれば、広告費10万円は回収できる」
戦略を戦術に翻訳する道具が、単品管理です。 会社の粗利総額は商品ごとの粗利の足し算でしかないので、商品ごとに 単価・原価・数量を持って初めて、全社の目標が現場の動きの数に変わります。
売上を商品別に見ている会社は多いのですが、それだけでは足りません。 粗利と利益の違いで書いたとおり、 会社を動かしているのは売上ではなく粗利だからです。
社長と現場をつなぐのは、粗利総額(MQ)
図の右側は、社長が見ている景色です。残したい経常利益(G)と、 払わなければならない固定費(F)。この2つを足した額が、稼がなければならない 粗利総額(MQ)になります。売上(PQ)はそのあとに出てくる結果で、 経営計画の立て方で書いた逆算の順番そのものです。
図の左側は、現場が見ている景色です。1個あたり粗利(M)は、単価(P)から原価(V)を 引いた残り。それを数量(Q)ぶん積み上げた合計が、そのまま粗利総額(MQ)になります。
| 同じ粗利総額(MQ)の言い方 | |
|---|---|
| 社長(戦略) | 固定費(F)+ 経常利益(G) |
| 現場(戦術) | 1個あたり粗利(M)× 数量(Q) |
同じ数字を、両側から別の言葉で呼んでいるだけです。 だから粗利総額(MQ)でしか、社長の計画と現場の行動はつながりません。 売上(PQ)でつなごうとすると、値引きしてでも達成できてしまうからです。
そして現場側の言い方は、商品ごとにしか存在しません。 会社全体の「1個あたり粗利」という数字は、どこにもないからです。 粗利総額(MQ)を現場の言葉に翻訳しようとすると、必ず商品別に分けることになります。 それが単品管理です。
全社の粗利900万円を、商品にほどく
まず会社全体の姿です(仮設のモデル例です)。
目的ではなく結果の数字
ここが経営の原資
この900万円は、どこかから降ってくるわけではありません。 商品を1個売るたびに積み上がった金額の合計です。中身を見てみます。
| 商品 | 単価(P) | 原価(V) | 1個あたり粗利(M) | 数量 | 売上 | 粗利総額 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| A 主力商品 | 3,000円 | 1,800円 | 1,200円 | 2,000個 | 600万円 | 240万円 |
| B 定番品 | 800円 | 300円 | 500円 | 8,000個 | 640万円 | 400万円 |
| C 高額品 | 12,000円 | 9,600円 | 2,400円 | 300個 | 360万円 | 72万円 |
| D オンライン講座 | 5,000円 | 300円 | 4,700円 | 400個 | 200万円 | 188万円 |
| 合計 | 1,800万円 | 900万円 |
売上で並べるか、粗利で並べるかで順位が変わる
同じ4商品を、2つの物差しで並べ替えます。
| 順位 | 売上で並べると | 粗利総額で並べると |
|---|---|---|
| 1位 | B 定番品(640万円) | B 定番品(400万円) |
| 2位 | A 主力商品(600万円) | A 主力商品(240万円) |
| 3位 | C 高額品(360万円) | D 講座(188万円) |
| 4位 | D 講座(200万円) | C 高額品(72万円) |
3位と4位が入れ替わりました。
C は売上360万円を立てている「売れている商品」です。ところが粗利では72万円しかなく、 4商品でいちばん少ない。単価12,000円のうち9,600円が原価で出ていくためです。
反対に D は売上200万円で最下位ですが、粗利では188万円を稼いでいます。 売上のほとんどが粗利として残るからです。
売上表を見ているかぎり、この逆転は永久に見えません。 「よく売れている商品」と「よく儲かっている商品」は、別のものです。
1個あたり粗利が分かると、販促が具体になる
ここからが戦術の話です。単品管理の値打ちは、順位が分かることではありません。 1個あたりいくら稼ぐかが分かると、明日の打ち手が数字で決まることです。 経営者の決めた粗利目標が、ここで初めて現場の動きに変わります。
① 「あと何個」「あといくら」が商品ごとに出る
来期は経常利益を200万円から300万円に増やしたいとします。 必要な粗利総額は1,000万円なので、あと100万円足りません。
これをどの商品で埋めるかで、必要な個数はまったく違います。
| 商品 | 1個あたり粗利 | 100万円に必要な個数 | いまの数量からの増加 |
|---|---|---|---|
| B 定番品 | 500円 | 2,000個 | +25% |
| A 主力商品 | 1,200円 | 834個 | +42% |
| D 講座 | 4,700円 | 213個 | +53% |
同じ100万円でも、B なら2,000個、D なら213個。 数だけ見れば D が楽に見えますが、いまの400個から53%増やすのは簡単ではありません。 いちばん現実的なのは25%増で届く B だと分かります。
「売上をあと◯%」ではなく「B をあと2,000個」。 ここまで降りて初めて、店頭の並べ方や声かけの話になります。
埋め方は個数だけではありません。同じ100万円は、単価でも作れます。
| 商品 | 数量 | 100万円に必要な値上げ幅 | いまの単価に対して |
|---|---|---|---|
| B 定番品 | 8,000個 | +125円 | 800円の16% |
| A 主力商品 | 2,000個 | +500円 | 3,000円の17% |
| D 講座 | 400個 | +2,500円 | 5,000円の50% |
A を100円だけ上げるなら、増える粗利は 100円 × 2,000個 = 20万円。 100万円を丸ごと埋めるには500円の値上げが要る、というところまで先に分かります。
個数と単価では、効く商品が逆になります。 個数で埋めるなら1個あたり粗利の大きい商品(D)、 単価で埋めるなら数量の多い商品(B)が効きます。 必要な値上げ率はその商品の売上で決まるので、売上の大きい B がいちばん小さい率で済むためです。 値上げで数量がどこまで落ちても割に合うかは 値上げで利益はどれくらい変わるかで計算しました。
② 広告を出す商品が決まる
広告費10万円を使うとき、何個売れば元が取れるかを商品ごとに出します。
損益の分かれ目 = 広告費 ÷ 1個あたり粗利
| 商品 | 1個あたり粗利 | 10万円の広告で必要な販売数 |
|---|---|---|
| D 講座 | 4,700円 | 22個 |
| C 高額品 | 2,400円 | 42個 |
| A 主力商品 | 1,200円 | 84個 |
| B 定番品 | 500円 | 200個 |
同じ10万円でも、D は22個で元が取れ、B は200個必要です。 広告に載せるべきは、単価の高い商品ではなく1個あたり粗利の大きい商品だと分かります。 C(単価12,000円)より D(単価5,000円)のほうが広告向きだ、というのは 単価だけを見ていたら絶対に出てこない結論です。
③ 値引きしてよい上限が分かる
同じ1,000円の値引きでも、痛みは商品ごとに違います。
| 商品 | 1個あたり粗利 | 1,000円引いたら | 消える粗利 |
|---|---|---|---|
| C 高額品 | 2,400円 | 1,400円 | 42% |
| A 主力商品 | 1,200円 | 200円 | 83% |
| D 講座 | 4,700円 | 3,700円 | 21% |
A は1,000円引いた時点で粗利が8割以上消えます。 「1,000円くらい」という感覚が、商品によってまったく違う重さを持つことが分かります。 値引きが粗利に効く仕組みは 値上げで利益はどれくらい変わるかで詳しく書きました。
④ セットの組み方が設計できる
B は1個500円しか稼ぎませんが、8,000個売れる人が集まる商品です。 D は400個しか出ませんが、1個で4,700円稼ぎます。
だとすれば、B を入口にして D へつなぐ導線が意味を持ちます。 B を買った人の5%が D を買えば、400人 × 4,700円 = 188万円。 いまの D の粗利がもう一つ増える計算になります。
こういう設計は、商品ごとの1個あたり粗利を持っていなければ出てきません。
やってはいけないのは「率の低い商品を切る」
C は粗利率20%です。数字だけ見れば足を引っ張っているように見えます。 ここで「やめよう」と判断するのが、単品管理でいちばん多い失敗です。
C をやめると粗利総額は900万円から828万円に減ります。 固定費700万円は1円も減りません。 その結果、経常利益は200万円から128万円へ。 率の悪い商品を切っただけで、利益が36%消えます。
考えるべきは「やめるかどうか」ではありません。
C に使っている時間・棚・人手を、D に回せないか。
C を1個減らして D を1個増やせば、粗利は2,400円から4,700円へ入れ替わります。 やめるのではなく入れ替える。これが単品管理から出てくる打ち手です。
率だけを追いかけると会社が縮む理由は 粗利と利益の違いにも書きました。 固定費は率ではなく額で払うからです。
どこまで細かく分けるか
商品が何百点もある会社で、全部を管理する必要はありません。 粗利総額の大きい順に並べて、合計の8割に届くところまでで十分です。
上の例なら B(400万)と A(240万)で640万円、全体の71%。 D(188万)まで入れて828万円、92%。C は残りの8%です。 つまりこの会社で毎月見るべきは3商品で足ります。
多くの会社では、粗利の8割は商品数の2〜3割から出ています。 残りは「その他」でひとまとめにし、その他が増えすぎていないかを年に1回見れば足ります。 全部を見ようとして続かないより、3つを毎月見るほうが強いです。
まとめ
- 社長の固定費(F)+ 経常利益(G)、現場の1個あたり粗利(M)× 数量(Q)。両者をつなぐのが単品管理
- 売れ筋と儲け筋は違う。売上順と粗利順では商品の順位が入れ替わる
- 1個あたり粗利が分かると、必要個数・値上げ幅・広告の採算・値引きの上限・セット設計が数字で決まる
- 率の低い商品は切らない。やめるのではなく、資源をより粗利の大きい商品へ入れ替える
- 全商品は見ない。粗利の8割を占める上位までで十分
GYAKUSAN では、部門ごとの粗利目標を商品に配り、単価と原価から必要販売数を1営業日あたりまで 逆算します(部門への配り方は部門別・店舗別の目標の決め方を参照)。 まずは主力3商品の単価・原価・数量を入れて、どれがいくら稼いでいるかを並べてみてください。
