去年と同じ作り方をしているのに、試算表の粗利率だけが落ちている。製造業では毎期のように出てくる話です。
製造業の計画は、全部原価ではなく直接原価で立てます。 決算書の製造原価は全部原価で、工場の給与や機械の減価償却費まで製品の原価に入っています。そのため粗利率は、売れ行きのほかに数量と在庫でも動きます。
売れた分だけ増える費用だけを原価にする直接原価に組み替えると、限界利益が数量に正比例し、「いくつ作れば足りるか」まで降ろせます。
全部原価と直接原価は、原価に固定費を入れるかどうかの違い
2つの原価の違いは、工場の固定費を製品の原価に入れるかどうかの1点です。
| 全部原価 | 直接原価 | |
|---|---|---|
| 製品の原価に入れる費用 | 材料費・外注加工費 + 工場の給与・減価償却費・製造経費 | 材料費・外注加工費だけ |
| 工場の固定費の扱い | 製品1個ずつに配る | その期の費用として一括で引く |
| 売上から原価を引いたもの | 売上総利益(粗利) | 限界利益 |
| 利益が動く理由 | 売った数と、作った数(在庫) | 売った数だけ |
| 使う場面 | 決算書・税務申告 | 社内の計画と判断 |
決算書は全部原価で作るのが決まりなので、試算表の粗利率は全部原価の数字です。 計画に使うのは直接原価のほうで、GYAKUSAN が「粗利総額(MQ)」と呼んでいるのも、直接原価で出した限界利益です。
決算書の製造原価は全部原価になっている
部品加工の会社を1社置きます。年間売上1億4,400万円、製造原価1億2,200万円(モデル例)。
| 費目 | 年額 | 売れた分だけ増えるか |
|---|---|---|
| 材料費 | 5,760万円 | 増える |
| 外注加工費 | 1,440万円 | 増える |
| 労務費(工場の給与) | 3,000万円 | 増えない |
| 減価償却費(機械) | 1,200万円 | 増えない |
| 製造経費(工場家賃・水道光熱費の基本料金) | 800万円 | 増えない |
| 製造原価 合計 | 1億2,200万円 | — |
全部原価の売上総利益は2,200万円、粗利率は15.3%です。この15.3%は、 売れても売れなくても出ていく5,000万円を引いた後の数字になります。 内訳は労務費3,000万円・減価償却費1,200万円・製造経費800万円です。
直接原価で見ると、原価は材料費と外注加工費の7,200万円だけです。 限界利益は7,200万円、限界利益率は50%になります。
全部原価の粗利率は、数量で動く
同じ会社で、数量だけが12,000個から9,600個へ2割落ちた場合を並べます。 作った数と売った数は同じ(在庫は積まない)とします(モデル例)。
| 12,000個 | 9,600個 | |
|---|---|---|
| 売上 | 1億4,400万円 | 1億1,520万円 |
| 売れた分だけ増える費用 | 7,200万円 | 5,760万円 |
| 工場の固定費(労務・償却・経費) | 5,000万円 | 5,000万円 |
| 製造原価(全部原価) | 1億2,200万円 | 1億760万円 |
| 1個あたりの製造原価(全部原価) | 10,167円 | 11,208円 |
| 売上総利益 | 2,200万円 | 760万円 |
| 粗利率(全部原価) | 15.3% | 6.6% |
| 限界利益率(直接原価) | 50.0% | 50.0% |
売り方も単価も何ひとつ変えていないのに、全部原価の粗利率は15.3%から6.6%へ落ちます。 売上総利益の額も2,200万円から760万円へ、1,440万円減ります。
1個あたりの製造原価が10,167円から11,208円へ上がったのは、 工場の固定費5,000万円を売れた個数で割り直したからです。 動かない費用を個数で配ると、売れない年ほど1個が高く見えます。 同じ理由で、GYAKUSAN では固定費を部門へ均等割りしません。 配るのは直課できる固定費だけにして、残りは本社共通の固定費として全社に置きます。
一方で直接原価の限界利益率は50.0%のまま動きません。 数量で動く率を計画の基準に置くと、計画の前提が期の途中で勝手に変わります。
全部原価では、在庫を積むと利益が出る
全部原価には、もう1つ見落としやすい性質があります。 売れていなくても、作れば利益が増えて見えることです。
売れたのは同じ9,600個のまま、工場は予定どおり12,000個を作って、 2,400個を在庫に積んだ場合を比べます(モデル例)。
| 9,600個作って9,600個売る | 12,000個作って9,600個売る | |
|---|---|---|
| 売上 | 1億1,520万円 | 1億1,520万円 |
| 売れた分の変動費 | 5,760万円 | 5,760万円 |
| 売れた分に乗った工場の固定費 | 5,000万円 | 4,000万円 |
| 在庫に残った工場の固定費 | 0円 | 1,000万円 |
| 売上総利益 | 760万円 | 1,760万円 |
| 販売費および一般管理費 | 1,600万円 | 1,600万円 |
| 経常利益(全部原価) | −840万円 | 160万円 |
| 経常利益(直接原価) | −840万円 | −840万円 |
12,000個作ると、工場の固定費5,000万円は1個あたり約4,167円で配られます。 売れ残った2,400個は、そのうち1,000万円ぶんを抱えたまま在庫に回り、今期の費用から消えます。 売った数は同じなのに、全部原価の経常利益は−840万円から160万円の黒字に変わります。
直接原価では、工場の固定費はその期の費用として全額引くので、作った数に関係なく−840万円です。 直接原価の利益は、売った数でしか動きません。
在庫に回った1,000万円は、翌期に売れたときに費用として出てきます。 その間も、2,400個ぶんの材料費と外注加工費1,440万円はすでに払っています。 全部原価の黒字だけを見て計画を立てると、現金は減っているのに利益が出ている、という判断の誤りが起きます。
直接原価の限界利益は、売れた分だけ増える費用で引く
限界利益は、売上から変動費だけを引いた金額です。
限界利益 = 売上 − 売れた分だけ増える費用
1個あたりでも見ます。単価(P)12,000円から原価(V)6,000円を引いた6,000円が、 1個あたりの限界利益です。12,000個なら7,200万円、13,000個なら7,800万円。 数量に正比例するところが、全部原価の粗利との決定的な違いです。
用語としての粗利と限界利益の関係は、 粗利と利益の違いで整理しています。
工場の労務費はどちらに入れるのか
全部原価の決算書を直接原価に組み替えるとき、分け方の基準は1つだけです。 売れなかった月にも出ていくかどうかで分けます。
| 費目 | 扱い | 理由 |
|---|---|---|
| 材料費 | 変動費 | 作った分だけ消える |
| 外注加工費 | 変動費 | 出した分だけ請求が来る |
| 荷造運賃・出荷運賃 | 変動費 | 出荷した分だけ増える |
| 工場の正社員給与 | 固定費 | 受注が減っても払う |
| 期間工・派遣(月単位の契約) | 固定費 | 当月の数量では増減しない |
| 機械の減価償却費 | 固定費 | 現金は出ていかないが毎期同額 |
工場の水道光熱費は、基本料金は固定費に置き、機械の稼働に連動して増える動力費は変動費へ寄せます。 荷造運賃・出荷運賃は一般には変動費ですが、このモデル例の会社は取引先負担のため金額がなく、 変動費は材料費と外注加工費だけになっています。
減価償却費1,200万円は費用に立つのに現金は出ていきません。 仕組みは減価償却費はなぜ現金が減らないのかに書きました。
境目で迷う費目の判断は、固定費と変動費の分け方が手順になっています。 製造原価と販売費で分けるのではなく、変動費と固定費で分け直すのが、直接原価への組み替えです。
必要な数量は固定費から逆算して出す
直接原価に分け直すと、この会社の固定費は次の4つで6,600万円になります(モデル例)。
| 固定費 | 年額 |
|---|---|
| 労務費(工場の給与) | 3,000万円 |
| 減価償却費(機械) | 1,200万円 |
| 製造経費(工場家賃・水道光熱費の基本料金) | 800万円 |
| 販売費および一般管理費 | 1,600万円 |
| 合計 | 6,600万円 |
この会社は運賃を取引先負担にしているため、販売費および一般管理費1,600万円はすべて固定費です。 自社で運賃を負担している場合は、その金額を固定費から外して1個あたりの変動費に足してください。
翌期に残したい経常利益(G)を1,200万円とします。
必要な限界利益 = 経常利益1,200万円 + 固定費6,600万円 = 7,800万円
限界利益率50%なので、必要な売上は1億5,600万円です。
目的ではなく結果の数字
ここが経営の原資
必要な数量は、7,800万円を1個あたりの限界利益6,000円で割って13,000個。 年間営業日を240日とすると、1営業日あたり54.2個です。
部品(年間の平均で1品目にまとめたもの)
=粗利MQ7,800万円
目的ではなく結果の数字
ここが経営の原資
損益分岐点は何個で越えるのか
固定費6,600万円を1個あたりの限界利益6,000円で割ると、11,000個が損益分岐点です。 売上高に直すと1億3,200万円になります。
☝ 図をタップするか、横にスライドすると、その個数での粗利と利益が出ます
損益分岐点11,000個と現状12,000個の差は1,000個、率にして8.3%しかありません。 目標の13,000個までは、現状から1,000個の上積みです。 年間240営業日なら、1営業日あたり4.2個になります。
| 数量 | 限界利益 | 経常利益 |
|---|---|---|
| 9,600個 | 5,760万円 | −840万円 |
| 11,000個(損益分岐点) | 6,600万円 | 0円 |
| 12,000個(現状) | 7,200万円 | 600万円 |
| 13,000個(目標) | 7,800万円 | 1,200万円 |
全部原価の粗利率では、この4行を同じ物差しで並べることができません。数量が変わるたびに率が変わり、在庫を積めば利益まで変わるからです。 個数まで落とす手順は損益分岐点は「売上高」で止めるなにまとめています。
まとめ
- 全部原価と直接原価の違いは、工場の固定費を製品の原価に入れるかどうか
- 決算書は全部原価。工場の給与や減価償却費が混ざるので、粗利率は数量で動く。2割の減産で15.3%から6.6%まで落ちた(モデル例)
- 全部原価では、在庫を積むと固定費が翌期へ持ち越され、売れていないのに利益が出て見える
- 直接原価の限界利益率は、単価と1個あたりの変動費が変わらないかぎり、数量が変わっても動かない
- 計画は直接原価で立てる。必要な限界利益 = 残したい経常利益 + 固定費。これを1個あたりで割ると必要な数量が出る
今日やることは1つです。試算表の製造原価を、材料費・外注加工費と、労務費・減価償却費・製造経費の2群に線を引いて分けます。これが直接原価への組み替えの第一歩です。
GYAKUSAN を使うと、直接原価で必要な数量が出る
無料シミュレーター GYAKUSAN は、はじめから直接原価の考え方で組まれています。 費用を変動費と固定費に分けて入れ、残したい経常利益と固定費から先に計算します。 出るのは、稼ぐべき限界利益と必要な売上です。商品ごとに単価と原価を入れると、 そこから必要な数量と1営業日あたりの個数まで降りてきます。 登録は要らず、入れた数字はサーバーに送られません。
| 入れる数字 | GYAKUSAN が出す数字 |
|---|---|
| 残したい経常利益(G)1,200万円と固定費(F)6,600万円 | 必要な限界利益 7,800万円 |
| 想定の限界利益率 50% | 必要な売上 1億5,600万円と変動費 7,800万円 |
| 単価(P)12,000円と原価(V)6,000円 | 必要な数量 13,000個 |
| 年間営業日 240日 | 1営業日あたり54.2個 |
この記事のモデル例をそのまま入れると、こうなります。
経常利益1,200万円 + 固定費6,600万円 = 必要な限界利益 7,800万円(限界利益率50%で必要売上1億5,600万円)
1個あたりの限界利益6,000円で割ると、必要な数量は 13,000個。損益分岐点は11,000個です
