経営計画が立たないのは、決算書が読めないからではありません。計画に使う数字と、使わない数字を分けていないからです。
決める数字は2つだけです。残したい経常利益と、固定費の合計。足すと、稼ぐべき粗利総額が出ます。その先にあるのは売上や原価率の話ではなく、どの商品の粗利を何個積むかの話です。これがこの記事の結論です。
苦手の正体は、見る数字が多すぎること
税理士から決算書の説明を受けても、来期の計画はそこから書き出せません。決算書は、外部に出すために作られた書類だからです。
損益計算書には勘定科目が縦に並び、その横に前期と当期の金額が載ります。この並びを上から読もうとすると、計画を作る手は止まります。どの行が計画に効くのか、決算書の側には書かれていないためです。
苦手なのは数字そのものではありません。見る数字が決まっていないことです。決まってしまえば、足し算を1回するだけで計画の土台ができます。
決める数字は2つ。足すと粗利総額が出る
決めるのは次の2つです。モデル例の数字を添えます。
| 決める数字 | どこから取るか | モデル例 |
|---|---|---|
| 残したい経常利益(G) | 決算書には無い。自分で決める | 500万円 |
| 固定費の合計(F) | 販管費の合計 + 支払利息 − 売上に連動する科目 | 2,000万円 |
稼ぐべき粗利総額(MQ)= 経常利益500万円 + 固定費2,000万円 = 2,500万円
粗利総額は、売上から変動費(売れた分だけ出ていく費用)を引いた額です。会社の取り分の合計で、ここから固定費を払い、残りが経常利益になります。
この足し算は予測ではありません。残したい利益と、どうしても出ていく固定費を足しただけの計算です。降りる向きそのものは、利益から逆算する経営計画の立て方にまとめています。
残したい経常利益は自分で決める
2つのうち、これは決算書に書いてありません。過去の記録ではなく、来期の意思決定だからです。
土台になるのは、借入金の年間返済額から減価償却費を引いた額です。元本の返済は費用ではないので損益計算書には出ませんが、口座からは出ていきます。
ただしこれは、税金を払った後に残っていなければならない額です。目標に掲げる経常利益は税引前の数字なので、最後に税金分を割り戻します。実効税率30%なら、0.7で割った額が下限です。
モデル例:年間返済額550万円 − 減価償却費200万円 = 350万円
350万円 ÷(1 − 30%)= 500万円
この下限を割る計画は、帳簿が黒字でも預金が減っていく計画です。設備投資や備えまで含めた積み上げ方は、目標利益の決め方にあります。
固定費は決算書の決まった行から拾う
モデルとして、前期の売上高が4,000万円の会社で考えます(モデル例)。決算書から使う行は4つです。
| 決算書の行 | モデル例 | 計画での扱い |
|---|---|---|
| 売上高 | 4,000万円 | 前期の粗利総額を出すのに使う |
| 売上原価 | 1,850万円 | 変動費に入れる |
| 販売費及び一般管理費 | 2,100万円 | うち150万円を変動費へ移す |
| 支払利息 | 50万円 | 固定費に入れる |
固定費は、販管費の合計に支払利息を足し、売上に連動する科目だけを変動費の側へ移して1つにまとめます。
固定費 = 販管費2,100万円 − 運賃・販売手数料など150万円 + 支払利息50万円 = 2,000万円
分ける基準は1つです。売れなかった月にも出ていくかどうかで決めます。迷う費目の判定は、固定費と変動費の分け方に一覧があります。製造業で製造原価に工場の給与や減価償却費が入っている場合は、売上原価をそのまま変動費にはできません(全部原価と直接原価の違い)。
同じ4行から、前期に稼いだ粗利総額も出ます。売上高から、売上原価と移した150万円を引いた額です。
前期の粗利総額 = 売上高4,000万円 −(売上原価1,850万円 + 150万円)= 2,000万円
決算書の売上総利益は2,150万円ですが、販管費に入っていた運賃・販売手数料150万円を引き直すと2,000万円になります。固定費2,000万円とちょうど同じ額で、前期の経常利益はゼロでした。
目的ではなく結果の数字
ここが経営の原資
来期に増やす粗利は、2,500万円 − 2,000万円 = 500万円です。ここまでが計画の土台で、決算書の仕事はここで終わります。
次の論点は、粗利総額をどの商品で作るか
粗利総額が決まると、次に考えるのは売上ではありません。どの商品の粗利を、何個積んで2,500万円にするかです。
商品1個あたりの粗利は、単価(P)から原価(V)を引いた額で、1個あたり粗利(M)と呼びます。粗利総額は、この1個あたり粗利に数量(Q)を掛けて、商品ごとに足し上げたものです。
このモデルの会社は、2つの商品を売っています(モデル例)。
| 商品 | 単価(P) | 原価(V) | 1個あたり粗利(M) | 前期の数量(Q) | 前期の粗利 |
|---|---|---|---|---|---|
| 商品A(粗利が厚い) | 10,000円 | 4,000円 | 6,000円 | 2,000個 | 1,200万円 |
| 商品B(粗利が薄い) | 1,000円 | 600円 | 400円 | 20,000個 | 800万円 |
| 合計 | 2,000万円 |
1個あたり粗利が大きい商品を何個売るか。粗利は薄くても、数で稼げる商品はあるか。来期の計画は、この問いに答えることです。
同じ利益でも、売上と原価率は案ごとに違う
粗利を500万円増やす作り方を、3つ並べます。
| 項目 | 案1:両方を伸ばす | 案2:商品Bの数で稼ぐ | 案3:商品Bに寄せる |
|---|---|---|---|
| 商品Aの数量 | 2,500個(+500個) | 2,000個(前期のまま) | 1,500個(−500個) |
| 商品Bの数量 | 25,000個(+5,000個) | 32,500個(+12,500個) | 40,000個(+20,000個) |
| 粗利総額 | 2,500万円 | 2,500万円 | 2,500万円 |
| 経常利益 | 500万円 | 500万円 | 500万円 |
| 売上 | 5,000万円 | 5,250万円 | 5,500万円 |
| 原価率 | 50.0% | 52.4% | 54.5% |
3つとも粗利総額は2,500万円で、経常利益は500万円です。一方で売上は5,000万円から5,500万円まで、原価率は50.0%から54.5%まで動きます。
売上目標を5,000万円と置くと、案2と案3は目標を超えたように見えます。原価率を50%に抑えろと言えば、案2と案3は失格に見えます。どちらも残る利益は同じです。売上と原価率は、商品の組み合わせを決めた後に出てくる結果で、計画の目標にはなりません。
商品A+500個
=粗利MQ1,500万円
商品B+5,000個
=粗利MQ1,000万円
商品A+商品Bの合計
目的ではなく結果の数字
ここが経営の原資
案1では、商品Aの粗利が6,000円 × 2,500個 = 1,500万円、商品Bの粗利が400円 × 25,000個 = 1,000万円で、合わせて2,500万円です。固定費2,000万円を引いて、経常利益500万円が残ります。
商品A
=粗利MQ900万円
商品B+20,000個
=粗利MQ1,600万円
商品A+商品Bの合計
目的ではなく結果の数字
ここが経営の原資
案3は、商品Aの粗利が6,000円 × 1,500個 = 900万円、商品Bの粗利が400円 × 40,000個 = 1,600万円です。商品Aが減っても、粗利総額は案1と同じ2,500万円で、残る利益も同じ500万円です。
どの案を選ぶかは、売り場と人手と仕入れの事情で決める戦略です。年間250日営業なら、案1は1営業日あたり商品Aが10個、商品Bが100個になります。この粒度まで降りると、現場で打ち手を考えられます。
粗利総額さえ決まれば、作り方は任せられる
社長が決めなければならないのは、稼ぐべき粗利総額と、使ってよい固定費の2つです。どの商品で作るかまで社長が決めきる必要はありません。
極端に言えば、現場への指示は「粗利を2,500万円つくってほしい。作り方は任せる」でも成り立ちます。商品Aを伸ばすか、商品Bの数で稼ぐかは、売り場を一番知っている人が選べばよい話です。
売上目標で指示すると、こうはいきません。粗利の薄い商品で売上を積んでも目標は達成できてしまい、利益が足りないことは期末まで分からないからです。
追いかける実績は、粗利総額と固定費の2つ
計画に対して毎月追いかけるのも、粗利総額と固定費の2つです。経常利益は粗利総額から固定費を引いた額なので、この2つが計画どおりなら利益も計画どおりになります。
案1を計画にした会社で、期末の実績が次の2通りだった場合を比べます(固定費はどちらも計画どおり2,000万円)。
| 実績 | 商品Aの数量 | 商品Bの数量 | 売上 | 粗利総額 | 経常利益 |
|---|---|---|---|---|---|
| 計画(案1) | 2,500個 | 25,000個 | 5,000万円 | 2,500万円 | 500万円 |
| 実績X | 1,600個 | 37,000個 | 5,300万円 | 2,440万円 | 440万円 |
| 実績Y | 2,700個 | 22,000個 | 4,900万円 | 2,500万円 | 500万円 |
実績Xは売上が計画より300万円多いのに、経常利益は60万円足りません。実績Yは売上が計画より100万円少ないのに、経常利益は計画どおり500万円です。
売上を見ていると、Xを褒めてYを叱ることになります。粗利総額を見ていれば、足りないのはXのほうだとすぐに分かります。
見ない数字を決めるほうが先に来る
決める数字を2つに絞ると、入口で見なくてよい数字もはっきりします。
| 入口で見ない数字 | 見ない理由 |
|---|---|
| 売上目標・売上高の前年比 | 商品の組み合わせで動く結果で、同じ利益でも案ごとに違う |
| 原価率・粗利率 | これも組み合わせで動く結果。目標にすると利益の出る案を捨てることがある |
| 営業利益などの段階利益 | 出発点を経常利益1つに決めないと、固定費の範囲も決まらない |
| 販管費の科目ごとの増減 | 内訳は固定費を削る段で使う数字で、入口では合計で足りる |
| 貸借対照表の各勘定 | 損益の計画とは別の話。現金の確認は計画ができた後に回す |
数字が苦手だという自覚は、この絞り込みでは強みになります。読む量を増やす方向へ戻りにくいためです。
まとめ
- 経営計画で決める数字は、残したい経常利益と固定費の合計の2つ。足すと稼ぐべき粗利総額が出る
- 残したい経常利益は決算書に無い。年間返済額から下限を出し、税金分を割り戻して決める
- 固定費は販管費と支払利息を足し、売上に連動する科目を変動費へ移して1つにする
- 次の論点は、どの商品の1個あたり粗利を何個積んで粗利総額を作るか。売上と原価率は、その結果として出てくる
- 現場への指示は粗利総額で出せる。追いかける実績も、粗利総額と固定費の2つ
今日やることは1つです。決算書を開いて固定費の合計を書き出し、残したい経常利益と足して、来期に稼ぐ粗利総額を1つの数字にします。
GYAKUSAN を使うと、粗利総額と商品の積み上げが並ぶ
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| 入れる数字 | GYAKUSAN が出す数字 |
|---|---|
| 残したい経常利益(G)500万円と固定費(F)2,000万円 | 稼ぐべき粗利総額 2,500万円 |
| 商品A・商品Bの単価(P)・原価(V)と、見込みの数量(Q) | 商品ごとの粗利と、その積み上げ |
| (積み上げと目標を突き合わせる) | 粗利総額があといくら足りないか |
この記事のモデル例をそのまま入れると、こうなります。
経常利益500万円 + 固定費2,000万円 = 稼ぐべき粗利総額 2,500万円
前期の数量(商品A 2,000個・商品B 20,000個)を入れると、積み上げは2,000万円で あと500万円。案1の数量に直すと、積み上げは2,500万円で目標に届きます
