売上目標の根拠は、前年の実績ではありません。残したい利益と固定費から割り出した必要売上です。 これがこの記事の結論です。
売上は目的ではなく結果です。先に利益を置いて逆から降ろすと、 目標の額そのものが変わり、未達のときに何を直せばよいかも見えます。
前年比は根拠ではなく去年の写し
来期の売上目標を決める場面でよく使われるのが前年比です。 前年8,000万円だったから来期は110%で8,800万円、という決め方になります。
この数字には、来期の事情が何ひとつ入っていません。
- 来期いくら返済し、いくら投資するのか
- 来期の固定費が今期からいくら増えるのか
- その売上で、いくら手元に残るのか
前年比110%は、去年の実績に1.1を掛けただけの数字です。 なぜ110%なのかは、去年の実績以外に説明する材料がありません。 根拠のない目標は、未達のときに何を直せばよいかが残らないまま期末を迎えます。
モデルとして、固定費2,700万円・粗利率40%の会社で考えます(モデル例)。 この8,800万円がどこに着地するかを見ます。粗利総額は8,800万円 × 40% = 3,520万円。 そこから固定費を引いた残りが利益です。
目的ではなく結果の数字
ここが経営の原資
利益は820万円になりました。この820万円には根拠がありません。 売上目標を先に置いた結果として、たまたまそこに落ちただけの数字です。
売上目標の根拠はどこから来るのか
順番を入れ替えます。先に決めるのは、売上ではなく残したい利益です。 そこから固定費、粗利総額、売上へと降ろしていきます。
残したい利益の最低ラインは、借入の返済から計算できます。
必要な経常利益 =(年間返済額 − 減価償却費)÷(1 − 実効税率)
モデル例:(年間返済額810万円 − 減価償却費180万円)÷(1 − 30%)= 900万円
返済の元本は費用ではないので損益計算書に出ませんが、口座からは出ていきます。 その原資は税金を払った後の利益なので、税率で割り戻します。 ここに設備投資と万一への備えを積み上げる手順は、 目標利益の決め方にまとめました。
同じ会社で、来期の目標利益をこの900万円と置きます。
稼ぐべき粗利総額(MQ)= 目標利益900万円 + 固定費2,700万円 = 3,600万円
必要売上(PQ)= 粗利総額3,600万円 ÷ 粗利率40% = 9,000万円
目的ではなく結果の数字
ここが経営の原資
前年比で置いた8,800万円との差は200万円です。 売上では2.3%の差にしか見えません。ところが粗利は3,600万円と3,520万円で80万円違い、 その80万円がそのまま利益の差になります。
| 決め方 | 売上目標 | 粗利総額 | 経常利益 |
|---|---|---|---|
| 前年比110% | 8,800万円 | 3,520万円 | 820万円 |
| 必要売上から | 9,000万円 | 3,600万円 | 900万円 |
| 差 | 200万円 | 80万円 | 80万円 |
額の大小が論点ではありません。9,000万円には これを下回ると返済と投資が回らないという線があり、8,800万円にはそれが無い、 という違いです。
必要売上は粗利率で大きく動く
売上目標だけを取り出して他社や去年と比べても、意味はほとんどありません。 必要な売上は、粗利率によってまったく違う額になるからです。
稼ぐべき粗利総額3,600万円を固定したまま、粗利率だけを変えます。
| 粗利率 | 必要売上 | 変動費 |
|---|---|---|
| 30% | 1億2,000万円 | 8,400万円 |
| 40% | 9,000万円 | 5,400万円 |
| 50% | 7,200万円 | 3,600万円 |
| 60% | 6,000万円 | 2,400万円 |
同じ利益・同じ固定費でも、粗利率が30%の会社と60%の会社では必要売上が2倍違います。 この4社はどれも経常利益900万円で並びます。売上1億2,000万円と6,000万円が同じ結果です。
だから目標は売上の額ではなく、粗利総額3,600万円のほうに置きます。 売上目標は、その粗利総額を自社の粗利率で換算した表示にすぎません。
いまの実力と差があるときは何を動かすか
計算した必要売上9,000万円に対し、いまの実力が8,000万円だとします。 差は1,000万円、前年比では112.5%です。ここで数量だけを追いかけないことが要点になります。
動かせる数字は3つあり、効き方が違います。
| 打ち手 | 動かす数字 | 必要売上 |
|---|---|---|
| 何もしない | 粗利率40%・固定費2,700万円 | 9,000万円 |
| 粗利率を45%に上げる | 単価(P)1,500円→1,636円 または 原価(V)900円→825円 | 8,000万円 |
| 固定費を100万円減らす | 固定費2,600万円 | 8,750万円 |
| 数量(Q)だけで埋める | 前年比112.5% | 9,000万円 |
粗利率を40%から45%に上げると、必要売上は8,000万円まで下がります。 前年と同じ売上で、目標利益900万円が成立するということです。 ただしこれは数量が落ちない場合の計算です。単価を上げて数量が10%落ちれば 売上7,200万円・粗利総額3,240万円となり、目標に360万円届きません。 単価を上げたときに利益がどれだけ動くかは、 値上げで利益はどれくらい変わるかで追いかけています。
固定費の効き方も同じ形です。粗利率40%のとき、固定費を100万円減らすと 必要売上は250万円下がります。減らした固定費を粗利率で割った額だけ、必要売上が縮むからです。
必要売上の減り幅 = 固定費の減り幅 ÷ 粗利率 = 100万円 ÷ 40% = 250万円
売上目標は部門と商品まで降ろして完成する
全社の必要売上9,000万円は、まだスローガンです。 配るのは売上ではなく粗利総額3,600万円のほうで、 売上目標は各部門でその粗利総額を換算した結果として出てきます。
| A部門 | B部門 | 合計 | |
|---|---|---|---|
| 粗利総額の目標 | 2,160万円 | 1,440万円 | 3,600万円 |
| 目標売上(粗利率40%) | 5,400万円 | 3,600万円 | 9,000万円 |
全部門を同じ目標粗利率で換算するので、部門の売上目標を足すと 全社の必要売上9,000万円にちょうど戻ります。合計が戻らないなら、 配る側が途中でどこかの部門の数字を足すか削っています。配り方の詳細は 部門別・店舗別の目標の決め方にあります。
商品まで降ろすと、目標は個数になります。 単価1,500円・原価900円で1個あたり粗利600円の商品なら、こうなります。
必要販売数 = 粗利総額3,600万円 ÷ 1個あたり粗利600円 = 60,000個
年間250日営業なら1日240個です。ここまで来ると、 売上目標は今日の行動の数に変わります。
前年比を使ってよい場面はあるのか
前年比が役に立つのは、目標を決めるときではなく、決めた目標を検算するときです。 必要売上9,000万円は、前年8,000万円に対して112.5%にあたります。
過去5年で最も伸びた年が8%だったなら、数量だけでは届かないと先に分かります。 そこで粗利率か固定費に手を打つ、という判断につながります。
| 前年比の使い方 | 可否 |
|---|---|
| 来期の売上目標をこれで決める | 根拠にならない |
| 計算した必要売上が実現可能かを測る | 使える |
| 過去の伸び率と比べて打ち手を選ぶ | 使える |
前年比はものさしであって、目標そのものではありません。 順番を守れば、前年比は最後に1回だけ登場します。
まとめ
- 売上目標の根拠は前年比ではなく、残したい利益と固定費から出した必要売上
- 必要粗利総額 = 目標利益 + 固定費。これは予測ではなく計算で確定する
- 必要売上 = 必要粗利総額 ÷ 粗利率。粗利率が違えば必要売上は2倍違う
- 差が大きいときは、数量より先に粗利率と固定費を動かす
- 部門に配るのは粗利総額。売上目標はそれを換算した結果として出す
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